金で金を買える分けもなし


アメリカで投資会社や保険会社、銀行の破綻や公的資金の注入、買収が続いている。
金で金を買い、金を儲ける企業の破綻だ。

金が金単独で増殖することがあり得るのか?
否。金は金単独で増殖することはあり得ない。
所詮、紙に印刷された数値だとか、
銀行のコンピュータ内での電子情報が、それのみで増殖することはあり得ない。


価値が増殖するためには、労働や大地、そして時間が必要だ。


普通、何も仕事をしなければエントロピーは増大する。
価値は何時だって発散する方向にある。
はて、では、何が増殖することで、これらの企業は口に糊をしてきたのか?

欲望。増殖する欲望。

食欲はお腹いっぱいになれば、それで収まる。
睡眠欲は眠りすぎればそれで収まる。
性欲だってそうだ。
身体レベルの欲望は、満たされればそれで収束し、
それ以上を望まない。いや、望めない。


しかし、金、権力、社会的地位、等々
記号レベルでの欲望は満たされるごとに、欲望がましてゆく。
他者の欲望を欲望することによって。


それらの、記号レベルでの欲得の象徴が
リーマンだったり、AIGだったり、メリルリンチだったりしたのだろう。
ケインズ美人投票の世界。
しかし、商品やサービスの伴わない、それらの手間を省いた、
記号の売り買いによる、無時間モデルのビジネスが、膨張し、支配的に成るということ、
そのことが、非常なリスクを含むことは、想像するに易い。


当然、それらの先物であったり、金融デリバティブであったり、
サブプライムローンであったりが無用であるということではなく、
節度の問題である。
実態を伴わない、幻想に支えられた世界は、
幻想にもとずき、幻想が膨張し、膨張した幻想に基づいて、さらに幻想が膨張する。
そして、幻想を基に現実を動かそうとしたとき、幻想は破綻する。
そして、その幻想に引きずられた現実は、ひずみ、無惨な残骸へとなりはてる。